遺言の方式
遺言の方式
遺言事項
遺言は、民法に定める方式に従って行う必要があります。
遺言の方式には、普通方式と特別方式があります。
普通方式の遺言として、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。また、特別方式の遺言は、死亡が危急に迫っている場合や一般社会と隔絶した場所にあるため、普通方式による遺言ができない場合に限り認められるものです。
普通方式
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
特別方式
- 一般危急時遺言
- 船舶遭難者遺言
- 隔絶地遺言
自筆証書遺言
民法改正前は、自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないとされていましたが、民法改正により、遺言書本文は自署によることが必要ですが、財産目録の全部または一部は自署によることはなく、パソコン等で作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を目録として添付することにより有効な遺言を作成することが可能となりました。ただし、当該自署によらない部分の目録の毎葉に署名、押印が必要です。
また遺言者は、遺言書作成の日付を自書しなければなりません。
日付の記載が要求されるのは、遺言者が遺言作成時に遺言能力を有していたか否かを判断するためと、二つ以上の遺言がある場合にその先後を決定するためです。
日付は、年月日が特定されるものであれば、記載方法に制限はありません。西暦でも年号でも構いません。「吉日」 のような表現では、日にちの特定ができないため、無効となります。 ただ日にちの特定ができるのであれば、「70歳の誕生日」、「定年退職の日」という記載でもかまいません。
氏名は、戸籍上の氏名と同一である必要はなく、通称、雅号、ペンネーム、芸名などであっても遺言者と特定できるのであれば有効です。
押印のない遺言は無効です。ただし押印は実印による必要はなく、認印でも構いませんし、指印も有効と考えられています。
【長所】
- ひとりでいつでも作成できる
- 作成費用がほとんどかからない
- 気軽に書き直すことができ、訂正が容易
- 遺言をした事実も内容も人に秘密にすることができる
- 法務局による自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、家庭裁判所の検認が不要となる。
【短所】
- 遺言は厳格に様式が定められており、場合によっては、無効になってしまうことがある
- 紛失したり、勝手に破棄されてしまう可能性もある
- 法務局による自筆証書遺言書保管制度を利用しなかった場合、家庭裁判所の検認が必要となる。
法務局における自筆証書遺言書の保管制度
自筆証書遺言書の紛失や、相続人による遺言書の破棄、隠匿、改ざんのおそれ、遺言書の真正に関しての紛争等、相続をめぐる紛争を防止するため、遺言者は、法務局で、遺言書の原本を保管することを申請することができるようになりました。また、この制度を利用することにより、家庭裁判所による検認が不要となるため、遺言者の最終意思の実現に当たり円滑な相続手続きが可能となりました。
相続人は、相続開始後、法務局に対して遺言書の証明書の交付請求、閲覧請求が可能となり、仮に遺言書が保管されていない場合には、その旨の証明書の交付を受けることができます。また、相続人の一人に遺言書の証明書を交付または閲覧をさせた場合には、他の相続人等相続関係者に対して、自身に関係のある遺言が法務局に保管されていることが通知されます。
公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者が公証人に伝えた遺言内容を、公証人が公正証書として作成する遺言です。もっとも、証拠力が高く、確実な遺言方法といえます。
【作成要件】
公正証書による遺言は、証人二名以上の立会いがあること、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること、公証人がその遺言者が口述した内容を筆記して遺言者及び証人に読み聞かせること、遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名、押印すること、公証人が適式な手続に従って作成されたものである旨を付記して証書に署名、押印することによって作成します。
【証人の立会】
2名以上の証人の立会が必要であり、証人は遺言の作成手続の最初から最後まで立ち会っている必要があります。ただし、次の者は、証人とはなることができません。
未成年者、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人
【遺言の趣旨の口授】
遺言者は遺言の趣旨を公証人に口授しなければなりません。
遺言の趣旨とは、遺言の内容の一字一句でなく、遺言の概要のことをいいます。
口がきけない者が遺言をする場合には、口述に代えて、遺言の趣旨を通訳人の通訳または自書により伝えることができること、遺言者または証人が耳の聞こえない者であるときは、通訳人の通訳により伝えることで、公証人の読み聞かせに代えることができます。
【遺言者及び証人の署名、押印】
遺言者及び証人は、筆記が正確なことを承認した後、署名押印しなければなりません。
【長所】
- 公文書なので、証拠力が高い
- 原本を公証人が保管するので、紛失・ 改変のおそれがない
- 家庭裁判所の検認が不要である
- 字を書けない人でも遺言できる
【短所】
- 作成手続きに手間がかかり、公証人の手数料等費用がかかる
- 遺言の存在と内容について秘密保持が難しい
- 証人の立会いを要する
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言の存在は明確にしつつも、その内容については秘密にできる遺言です。まず、遺言書を作成し、封印、証人二人とともに公証人の面前で、自分の遺言書である旨等を申述します。しかし、内容については公証人が関与しないため、内容について争いになる可能性もあります。
【作成要件】
秘密証書遺言は、遺言者がその証書に署名押印すること、遺言者がその証書を封じ、証書に用いた印章でこれに封印すること、遺言者が公証人1人及び証人2人以上の面前で封書を提出して、それが自己の遺言書である旨並びに氏名及び住所を申述すること、公証人がその証書の提出された日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともに署名押印することにより作成します。
秘密遺言証書の場合は、自筆証書遺言の場合と異なり、ワープロ、タイプライター等の機械を利用して作成してもかまいません。
また、日付けの記載も、特に必要とはされていません。遺言証書が提出された日付が、公証人によって封紙に記載されるからです。
遺言者は封紙に署名・押印することが必要とされています。公正証書遺言の場合のように、公証人がその事由を付記して署名に代えることは許されません。
秘密証書遺言として方式が欠けていても、自筆証書遺言の方式を具備している場合、有効な自筆証書遺言となります。
【証人の立会】
2名以上の証人の立会が必要です。
公正証書遺言と同様に資格制限が設けられており、次の者は、証人とはなることができません。
未成年者、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族、公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人
【長所】
- 遺言の存在を明確にして、その内容の秘密が保てる
- 公証されているから偽造・変造のおそれがない
【短所】
- 手続きがやや複雑である
- 紛失、未発見のおそれがある
- 執行には家庭裁判所の検認が必要になる
(1)一般危急時遺言
疫病その他の事由によって、死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会をもって、その1人に遺言の趣旨を口授し遺言することができます。
この場合、口授を受けた者がこれを筆記し、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後に、署名、押印しなければなりません。さらに、遺言の日から20日以内に証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求して、確認の審判を得る必要があります。
この遺言は、遺言者が緊急事態を脱し、普通方式によって遺言することができるようになった時から6ヶ月間生存する時は、その効力を生じません。
(2)船舶遭難者遺言
難船危急時遺言は、船舶遭難の際、在船者で死亡の危急に迫っている者は、証人2人以上の立会を得て、遺言者が口頭で遺言をすることができます。証人が遺言の趣旨を筆記し、これに署名・押印します。この場合の筆記が遺言者の面前ないしその場でなされることも、筆記を遺言者及び証人に読み聞かせることも必要ではありません。
また、家庭裁判所による確認は、証人の1人又は利害関係人から遅滞なく請求すれば足ります。
この場合の遺言も、遺言者が普通方式によって遺言することができるようになった時から6ヶ月間生存する時は、その効力を生じません。
(3)隔絶地遺言
隔絶地遺言とは、危急時遺言のように死亡の危急が迫っているとの事情はないが、遺言者が一般社会との交通が断たれた場所にいるため、普通方式による遺言ができない場合に認められる方式です。伝染病隔離者遺言と在船者遺言があります。
(ア)伝染病隔離者遺言
伝染病隔離者遺言は法文上は伝染病となっていますが、伝染病による場合だけでなく、広く行政処分で交通を断たれた場所にいる場合に認められた遺言方式です。
例えば、刑務所内にある者、戦闘・暴動・災害などのような事実上の交通途絶地にある者なども含まれます。
そのため、伝染病隔離者遺言は一般隔絶地遺言とも呼ばれます。
警察官1人及び証人1人以上の立会いが必要で、この場合自筆である必要はありませんが、遺言者、筆者、警察官及び証人が遺言書に署名し、押印します。
なお、家庭裁判所の確認は不要です。
遺言者が普通方式によって遺言をすることができるようになった時から6ヶ月間生存するときは、無効となります。
(イ)在船者遺言
船舶中にいる者、船舶の中にいれば、航行中に限らず、停泊中を含むと解されています。
船舶の規模などではなく、容易に上陸して普通方式遺言をすることができるような航行状態にあったかどうかを基準に考えます。
船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会いが必要で、この場合自筆である必要はありませんが、遺言者、筆者、立会人及び証人が遺言書に署名し、押印します。
なお、家庭裁判所の確認は不要です。
遺言者が普通方式によって遺言をすることができるようになった時から6ヶ月間生存するときは、無効となります。