家庭裁判所による遺産分割

家庭裁判所による遺産分割

家庭裁判所による遺産分割(調停分割と審判分割)

相続人間で遺産分割の協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、各相続人は家庭裁判所にその遺産の分割を請求することができます。
家庭裁判所による分割には、「調停分割」と「審判分割」があり、いずれを申立てても構いませんが、実務上は調停を申立てるケースがほとんどといえます。調停を経ずに審判を申立てた場合には、家庭裁判所が職権で事件を調停に付することができますし、実務上も特別な事情がない限り、調停に付する運用になっています(職権調停)(家審11)。

調停分割

(1)当事者

遺産分割調停の当事者は、各相続人です。相続人と同一の権利義務を有する包括受遺者及び相続分の譲受人も当事者となります。
なお、申立ては、相続人の1人又は複数から行い、又申立人以外のすべての相続人(包括受遺者等を含む)を相手方とする必要があります。相続人中に行方不明の者ないし生死不明者がいる場合には、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に対して行うか、家庭裁判所の選任した財産管理人を当事者として、家庭裁判所の許可を得て不在者財産管理人又は財産管理人を調停手続に参加させる必要があります。

(2)管轄裁判所

調停の申立ては、相手方の住所地(相手方が複数いる場合であって、住所地が異なる場合には、そのうちの1人の住所地)の家庭裁判所又は当事者の合意で定めた家庭裁判所に申立てます。

(3)調停申立後

家庭裁判所は調停の申立てを受けると、相続人の親族関係や相続財産の実情を知るための照会書を相続人全員に郵送します。家庭裁判所はこの照会書回答をもとに資料を作成し、調停が開始します。
調停は、家事審判官及び調停委員をもって組織する「家事調停委員会」が行います。実務上は、弁護士その他の専門家を含む2名の調停委員が家事審判官の意見を聞きながら、事件の実情の聴取、調停の勧告を行います。
遺産分割調停は、調停期日に、当事者その他の関係者を出頭させて非公開で行われます。
一般的には当事者(共同相続人)が一同に介してして話し合うことは少なく、当事者の一方の話を調停委員が希望や経緯や事情を聴取し、次に相手方の意見を聴取するというように、交互に調停室に入室するという方法をとりながらお互いが合意できそうな調停案を提示していきます。1ケ月に1度ぐらいのペースで進むことが多く、合意が得られれば、強制力を持つ調停調書が作成されることになります。

(4)調停の成立

当事者間に合意が成立し、調停機関(家事調停委員会若しくは裁判所)がその合意が相当であると認めて「調停調書」に記載すると調停は成立します(家審21)。
調停調書の記載は、執行力のある債務名義と同一の効力を有しますので、執行文等の付与を要することなく直ちに強制執行をすることができます。

(5)調停の不成立 (不調)

当事者間に合意の成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認められる場合には、調停を成立しないものとして事件を終了させることができます(家審規138の2)。調停が不成立で終了した場合には、調停の申立ての時に遺産分割の審判の申立てがあったものとみなされ、遺産分割事件は審判手続きに移行し、審判手続が開始します(家審26)。

審判分割

遺産分割の協議が調わなかったり、協議ができないときは、各相続人は家庭裁判所に対して、遺産分割の審判を請求することができます。
また、遺産分割調停が不成立となった場合、調停申立時に審判の申立てがあったものとみなされ、審判手続に移行します。
協議や調停と異なり、当事者の合意がなくとも分割方法が決定される点に審判の特色があります。

(1)当事者

遺産分割審判の当事者は、各相続人です。相続人と同一の権利義務を有する包括受遺者及び相続分の譲受人も当事者となります。相続人中に行方不明の者ないし生死不明者がいる場合には、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に対して行うか、家庭裁判所の選任した財産管理人を当事者として、家庭裁判所の許可を得て不在者財産管理人又は財産管理人を審判手続に参加させる必要があります。

(2)管轄裁判所

遺産分割の審判の申立先は、調停と異なり被相続人の住所地又は相続開始地の家庭裁判所とされています。調停の不成立によって審判に移行する場合は、原則として調停をしていた家庭裁判所が審判手続きを行います。
ただし、相続財産の鑑定に著しい支障が生じる場合や尋問を要する参考人等が他の管轄家庭裁判所区域内に多数存在する場合等、時間的・経済的な利便性を考慮し、事件を処理をするために適当であると認められる場合には、事件を移送することができます。

(3)審判申立後(審理)

家事審判手続は、家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図るため、国家が後見的見地から遺産に関する関係に介入し、裁量的、合目的に具体的な分割方法を決定する手続であり、実務上、家事審判官が単独で審判を行っています。
そのため、通常の訴訟手続と異なり、家庭裁判所は、職権で事実の調査及び必要と認める証拠調べを行い、審理は非公開で行われます。
審判分割においては、家事審判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況等の事情を考慮して行われますが、家庭裁判所が裁量により相続分を増減することは許されないとされています。
分割の態様には、現物分割、換価分割、代償分割、共有分割、用益権設定による分割及びこれらを併用する等の方法があり、裁判官の裁量的判断により決定されることになります。

(4)審判の認容

認容の審判は、申立てが適法であり、かつ遺産分割の処分をなすべきものと認められる場合になされるものです。確定した審判により、執行文の付与を要することなく直ちに強制執行することができます。

(5)審判の却下

却下の審判は、申立てが不適用、又は分割の理由ないし必要がない場合になされるものです。

(6)効力の発生

遺産分割審判は、告知を受けた日から起算して2週間が経過すると確定し効力を生じます。

(7)不服申立て

認容・却下に対する審判に対し、不服のある当事者は、告知を受けた日から起算して2週間内に即時抗告をすることができます。