相続人の廃除
相続人の廃除とは
相続人の廃除とは、遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を与えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができるという民法上の規定です。家庭裁判所の審判の確定又はこれと同一の効果を生じる調停調書の作成により、その者の「相続権を剥奪」する制度です。 「相続権の剥奪」という点では、相続欠格と同じ効果ですが、相続欠格が被相続人の意思とは無関係に相続権が剥奪されるのに対し、相続人の廃除は、被相続人の意思によって相続人の相続資格を剥奪するところが相続欠格と異なります。
廃除される者
廃除の対象となり得るのは、遺留分を有する推定相続人です。民法第1028条によると、兄弟姉妹を除く相続人は遺留分権利者とされていますが、廃除の時点において相続人となる者が配偶者、血族第一順位相続人及び第二順位相続人である場合において、その一部又は全部から相続資格を奪いたいと考えるときには相続人の廃除の手続きをとらなければならないとされています。これに反し、兄弟姉妹に遺産を相続させたくなければ、他の者に全財産を贈与又は遺贈し、あるいは兄弟姉妹の相続分をゼロと指定する遺言を行えば足りますので、あえて相続人の廃除手続きをする必要はなく、廃除の対象とされる者は「遺留分を有する推定相続人」と限定されています。
それゆえ、推定相続人が遺留分を放棄しているとき(民法1043)には、兄弟姉妹と同じく廃除をする必要性がないので、相続人の廃除は認められません。
廃除事由
廃除事由は、被相続人に対する虐待、重大な侮辱とその他の相続人の著しい非行など、相続人としてふさわしくない行為などがあった場合です。
一般論としては、相続人の行為が、客観的かつ社会的にみて相続的共同関係を破壊した場合であり、相続権の廃除を正当とする程度に重大なものでなければなりません。たとえば、単に仲が悪いといったような理由では相続人の廃除を行うことはできないということになります。
廃除の手続
廃除は以下の2つの手続のいずれかで行うことができます。廃除は、相続権の剥奪という重大な効果を生ずるので、被相続人の恣意を防ぐ必要性から、家庭裁判所が廃除事由の有無を判断することになります。
(1)生前の廃除申立
被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てます。これにより、家庭裁判所は審判または調停によって審理します。
(2)遺言による廃除
相続人の廃除は生前だけでなく、遺言によっても行うことができます。被相続人が遺言によって推定相続人を廃除したときは、被相続人が遺言執行者を定めているとき(民法1006)はこの者が、定めがないときは利害関係人の請求によって選任された遺言執行者(民法1010)が廃除の申立てを行います。
廃除の効果
審判の確定又はこれと同一の効果を生じる調停調書の作成によって、相続資格剥奪の効果が生じます。廃除の効果は、廃除を請求した被相続人に対する関係で廃除の対象となる相続人の相続権を剥奪することです。 もっとも、審判確定前に相続が開始するときは、相続人資格剥奪の効果は相続開始時に遡ります。当然ながら遺言による相続人廃除の場合は、相続開始後に審判が下されますので、同様に相続人資格剥奪の効果は相続開始時に遡ります。
廃除された者(被廃除者)は、当該被相続人との関係でのみ、相続資格を剥奪されるに過ぎず、他の者との相続関係には及ばないとされています(相続人廃除の相対効)。
廃除の取消し(民法894)
相続人の廃除は被相続人の意思によるものであるから、審判又は調停によってその効果が生じても被相続人において気が変われば取消しを請求することができますし、特にその理由も必要とされていません。被相続人が生前に取消すことができるのはもちろんのこと、遺言によっても廃除の取消しを請求することができ、遺言による場合には、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の取消しの請求をしなければなりません。
廃除の取消しが認められると、廃除の効果は相続開始時にさかのぼって消滅し、相続人は相続資格を回復します。