相続放棄と生命保険と年金
相続放棄と保険金と年金
1 相続放棄と生命保険
相続放棄をすると、被相続人の加入していた生命保険を受け取ることができなくなるのでしょうか?生命保険には受取人が指定されているものとそうでないものがありますので、以下ケースを分けて検討してみることとします。
〇保険契約あるいは約款で特定の受取人が指定されている場合
受取人指定の生命保険の場合、受取人は相続によって保険金を受け取るのではなく、保険契約で定められた受取人という立場で受け取ることとなります。すなわち保険契約に基づく固有の権利として取得するのです。
ですから、相続放棄してもそれとは無関係に生命保険を受け取ることができ、保険金を受け取ったことによって単純承認とみなされたり、相続放棄ができなくなるといったこともありません。また、保険金の受取人が、被相続人より先に死亡している場合は、その保険金受取人の相続人全員が保険金受取人となります。従って、この場合も、固有の権利として保険金を受取ることができます。
〇保険契約あるいは約款で受取人が指定されていない場合
保険契約上、このような指定方法も有効であるとされますが、このような指定をした場合、保険契約者の合理的石解釈により、特段の事情のない限り、被保険者死亡の時における相続人となるべき者を保険金受取人として指定した他人のための保険契約であると解されるとして、保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に、相続人となるべき者が固有の権利として取得し、相続の対象とはならないと解されます(最判昭和40・2・2民集19・1・1)。
保険契約者が保険金受取人を指定しなかったときは、保険金を被保険者の相続人に支払う旨の条項がある場合は(このような場合がほとんどと思われる。)、被保険者の相続人に保険金を取得させることを定めたものと解するのが相当であり、保険金受取人を相続人と指定したのと異なるところがないとされています(最判昭和48・6・29民集27・6・737)。
したがって、このような場合も保険金請求権は遺産には含まれないこととなります。
2 相続放棄と団体信用生命保険
住宅を購入する際にほとんどの方が住宅ローンを利用されるのではないでしょうか。
そして、民間の金融機関等で住宅ローンを組む場合、住宅ローンに付随する保険として、団体信用生命保険(通称「団信」と言われています)に加入することが条件とされていることが殆どです。
団信は、債務者が住宅ローンの返済途中で死亡、又は高度障害になった場合に、本人に代わって生命保険会社が住宅ローン残高を支払うというものです。
死亡した人(被相続人)の債務が住宅ローンのみの場合、この団信の保険金の支払により住宅ローンは完済されるため、相続放棄をする必要はありません。住宅ローン以外に多額の債務がある場合、住宅ローンの返済は団信で完済されたとしても、他の債務が残ります。
その場合、「自宅を売却した場合の金額とその他のプラスの相続財産」と「住宅ローン以外の負債の総額」とを考慮して相続放棄するか否かを検討することとなります。
3 相続放棄と年金
相続放棄をした場合、死亡した人(被相続人)が生前から受け取っていた厚生年金は、受け取る事はできません。
ただし、被相続人が死亡した事により発生する「遺族年金」は、法律の規定に基づいて、亡くなった方と一定の関係にあった遺族に与えられるもので、相続財産ではありませんので、相続放棄しても、遺族年金を受け取ることができますし、遺族年金を受け取っても、相続放棄できます。
未支給の年金給付は、法律の規定に基づき生計を同じくしていた遺族に支給されます。これも、相続とは関係ありませんので相続放棄しても受取ることができます。