相続放棄の注意点

相続放棄の注意点

プラスの財産を相続できなくなる

相続放棄をすることによって「その相続に関して、初めから相続人ではなかった。」という法的効果が発生することになりますので、死亡した人(被相続人)が負っていた借金等のマイナスの財産から免れると同時に、預貯金や不動産といったプラスの財産も相続することはできないこととなります。もし仮に、マイナスの財産を上回るプラスの財産(不動産や株券、現金、預貯金など)が後から見つかったとしても、残念ながら相続することはできません。

また、相続放棄の場合には代襲相続が認められません。代襲相続というのは、相続の開始以前にすでに相続人が死亡(親より先に子供が死んでいる場合等)していたり、本来相続人となるべき者が、相続欠格や廃除といった事由によって相続できない場合に、その相続人の子が代わって相続するといったものです。

相続放棄をした場合は、その相続に関して、初めから相続人ではなかったとみなされるのですから、その子供が代わって相続(代襲相続)することもできなくなるのです。

また、家庭裁判所に相続放棄の申述が受理され、相続放棄の効力が生じてしまった後は、相続放棄の申述を撤回することはできませんので注意して下さい。

相続が回っていく

相続放棄をすると初めから相続人ではなかったことになります。よって相続に関する一切の権利義務は次順位の相続人へまわっていきます。

【相続人の範囲と順位】

  • 第1順位 被相続人の子供(胎児を含む。)
  • 第2順位 被相続人の直系尊属(父母、祖父母等)
  • 第3順位 被相続人の兄弟姉妹

被相続人に配偶者がいるときは、常にその配偶者は相続人となり、配偶者以外に相続人がいる場合は、配偶者は他の相続人と同順位となります。ただし内縁の配偶者は含まれません。
つまり誰も相続に関わりたくないのであれば、第一順位から第三順位までの全ての相続人が相続放棄をする必要があります。

相続放棄の撤回

一度なされた相続の承認又は放棄を自由に撤回することができるとすると、死亡した人(被相続人)の債権者等利害関係人に及ぼす影響が大きいため、一度なされた相続の承認及び放棄は、熟慮期間内でも撤回することができません。

ところが、民法919条2項は、「前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取り消しをすることを妨げない」と規定しています。
つまり、撤回はできないけれど、取り消しはできるとされているわけです。
そして、ここでの「取り消し」は、詐欺・強迫によって相続放棄がなされた場合や、相続放棄した者が未成年者等の制限能力者であった場合などに限られます。 こうした場合には、例外的に一度なされた相続放棄も取り消すことができるのです。

ただし民法919条3項は、「前項の取消権は、追認をすることができる時から6ヶ月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする」と定めています。
民法919条3項が言っている「追認をすることができる時」とは、たとえば詐欺によって相続放棄をしてしまった場合には、騙されていたことに気づいた時点を意味します。その時から6ヶ月以内に相続放棄を取り消さないと、もはや相続放棄を取り消しできません。またたとえ詐欺をされて相続放棄してしまった場合でも、詐欺に気づかないまま相続放棄してから10年が経過してしまえば、もはや相続放棄は取り消せないことになります。
そして、民法919条4項により、「限定承認又は相続の放棄の取り消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない」とされています。

なお、最高裁判例は、錯誤によって相続放棄をしてしまった場合に、相続放棄の無効を主張しうることを認めています。

相続放棄と葬儀費用

民法第921条1項は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは単純承認したものとみなすと規定しており、以後、その相続人が相続放棄や限定承認をすることを認めていません。

相続放棄をするためは、自己のために相続の開始があったことを知ったとき(通常は死亡時)から3ヶ月(熟慮期間)以内に家庭裁判所に相続放棄をする旨の申述をしなければなりませんが、相続放棄をする場合であっても、亡くなった人(被相続人)の葬儀は執り行いたいと思うは当然のことだと考えられます。

では、相続放棄を行おうと考えている者が被相続人の葬儀を執り行い、葬儀費用を被相続人の相続財産から支出した場合、その者は相続を承認したものとみなされ相続放棄をすることができなくなるのでしょうか。

結論から言えば、相続放棄を行おうと考えている者が被相続人の葬儀を執り行い、葬儀費用を被相続人の相続財産から支出した場合であっても相続放棄をすることは可能です。
ただし、香典や弔慰金がある場合にはまずこれを葬儀費用に充てるべきです。これらは、相互扶助の精神から遺族に対し金銭などを贈与するという意味がありますので、被相続人の相続財産とはなりません。
そして、香典等では葬儀費用が足りない場合、被相続人の相続財産から支出することとなりますが、その額は、身分相応の、当然営まれるべき程度の葬儀費用でなければなりません。

すなわち、相続放棄を行おうと考えている者が、被相続人の相続財産から葬儀費用を支出した場合に相続を承認したものとみなされないためには、その額が、被相続人の葬儀として身分相応といえる必要最小限の額に限られ、その額を超えた場合は相続を単純承認したものとみなされる可能性がありますので、注意が必要です。

また、後日裁判所や債権者から説明が求められた際にきちんと答えられるように、相続財産から葬儀費用に充当したことを示すための明細書・領収書などはきちんと保管しておくようにしておきましょう。